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かぼちゃの馬車から学ぶ不動産投資のリスクと心得

かぼちゃの馬車とは何?【概要】

スマートデイズ(旧スマートライフ)という不動産会社が首都圏に展開した女性専用シェアハウスを「かぼちゃの馬車」といいます。

2014年4月から、スマートデイズはかぼちゃの馬車のオーナーを募り、スルガ銀行から自己資金ゼロで融資を受けたオーナーが1棟1億円~4億円のシェアハウスを建築していきました。建築したシェアハウスはスマートデイズが借り上げる「サブリース事業」として展開したのです。


画像引用:atpress.ne.jp

「30年間家賃収入を保証」とスマートデイズは謳っていましたが、かぼちゃの馬車の入居率は低迷して経営は破綻し、スルガ銀行がスマートデイズへの新規融資をストップしたことにより、2018年1月にオーナーへの賃料収入の支払いはストップしてしまいました。
すなわち、かぼちゃの馬車事件とはスマートデイズとスルガ銀行が招いたサブリース家賃不払い問題のことを言います。

スマートデイズとスルガ銀行、不動産業者がターゲットにしたのは30代~50代の所属や勤務先の属性が高い人で、多くは大手企業のサラリーマンで不動産投資の初心者でした。彼らはミドルリスク・ミドルリターンの資産運用として1億円規模のフルローンを組み、約700人が返済の目途の立たない借金を背負うことになりました。

サブリースとは何?かぼちゃの馬車の【仕組み】

かぼちゃの馬車の問題を理解するにはまず、「サブリース」について理解しなければなりません。

サブリースとは、又貸し(転貸)のことを言います。かぼちゃの馬車の場合、物件はオーナー(個人投資家)のものですが、スマートデイズがそれを借り上げ、オーナーの代わりに運営・管理を行いました。サブリース会社は通常「家賃保証」を行い、オーナーに対して毎月一定の賃料収入を支払います。

サブリース会社が請け負う内容

  • 家賃の集金
  • 入居者募集
  • 入居者からのクレーム対応
  • 建物の修繕、リフォーム

サブリースのメリットとデメリット

一見、不動産投資初心者の投資家にとって魅力的なサブリースですが、どういったメリットと問題点があるのでしょう?

投資家にとってサブリースのメリット

  • 空室や滞納があっても、家賃保証によって契約期間中は安定した収益が得られる
  • 管理に手間がかからない
  • 知識がなくても賃貸物件を建てられる

投資家にとってサブリースの問題点

  • 当初決めた家賃での保証は契約期間内のみで、契約更新時(だいたい2年毎)に賃料が下げられる「賃料の見直し」がある
  • 家賃保証の額は賃料の7割~9割
  • 満室になっても収益性が低くなる(サブリース会社に支払う分)
  • リフォーム、修繕の際にもサブリース会社に費用を上乗せされる
  • 契約を解約するには高額な違約金が発生する(借地借家法)

最大のメリットはやはり、不動産投資のリスクとして大きな要素を占める「空室のリスク」を回避することです。しかし、投資物件に空室が増えると賃料の見直しが必要になるため、不動産賃貸経営の収益源となる賃料が下がっていき、ローン返済の額より家賃収入が下回りキャッシュフローがマイナスに転じる可能性が出てきます。

すなわち、サブリースで投資した資金を回収するためにはやはり優良な物件かどうかを見極める能力が投資家に必要となります。そして、家賃保証が下がるものと想定したシミュレーションもしておかなければなりません。

サブリース会社のメリット

ここまでは投資家にとってのサブリースのメリット・デメリットを見てきましたが、サブリース会社にとってのサブリースのメリットとは何なのでしょうか?

「30年間家賃を保証しますよ」「運営・管理はうちがしますよ」と言うのであれば、銀行から融資を受けて自社で物件を所有した方が儲けは大きくなるはずです。

それをせずにオーナーを募るのには理由があります。

サブリース会社にとってサブリースのメリット

  • 物件の購入資金はオーナーが負担するので、借金がない(利息を払わなくて済む)
  • 空室が増えてしまっても、賃料を下げていけば賃料保証の金額も抑えられる
  • 借地借家法で守られる(この法律で、オーナーでなく借り手が有利)

これに加え、かぼちゃの馬車でスマートデイズ社は別のメリットも持っていました。

スマートデイズ社のかぼちゃの馬車のメリット

  • 新築物件の建築を相場より高く引き受けることで、利益を先に確保できる

スマートデイズ社にとっては新築の建築費で先に利益を出してしまうので、物件の長期的な価値変動に対するリスクをオーナーに負わせることができるというのが最大のメリットです。

もちろんスマートデイズ社も家賃収入がサブリースの収益源ですので、収益を最大化するために物件の運営を全力で行います。しかし、スマートデイズ社は自分たちの逃げ道を確保したうえでハイリスクな投資の勧誘をしていたのです。

一方、スマートデイズのようなサブリース会社がサブリースを行う際の問題点とは何でしょうか?それは、

サブリース会社にとってサブリースの問題点

新築で物件を建築し、オーナーとなることができる投資家探し

今回、かぼちゃの馬車のターゲットとなったサラリーマンたちが1億円規模の物件を購入するには銀行からの融資が必要ですが、銀行は融資基準という厳しいルールを持っています。融資申請者の給与所得や預金残高および不動産経営のプランを詳しく調べ、融資の判定を行います。この審査を通ることができなければ融資を受けられず、かぼちゃの馬車のオーナーになることはできません。事実、かぼちゃの馬車の被害に遭った人たちは自己資金が乏しく、本来は融資条件を満たさない人ばかりでした。そう簡単にサブリースのオーナーを見つけることは難しいのです。

この問題を解決したのがかぼちゃの馬車におけるスマートデイズとスルガ銀行の関係です。

かぼちゃの馬車の仕組み

運営会社のスマートデイズとかぼちゃの馬車を扱う不動産会社は「我々のシェアハウスのビジネスモデルを銀行が支持している」と投資家を信頼させ、スルガ銀行への融資申請を促していました。またテレビCMでもかぼちゃの馬車は有名タレントを起用しており、不動産投資初心者を信頼させることに成功しました。
これにより、スマートデイズが新築シェアハウスの販売価格を吊り上げたり、「利回り8%で30年間賃料保証」と謳っても販売可能となりました。つまり、かぼちゃの馬車がこれだけ大きな事件になったのはスルガ銀行の存在が不可欠です。

2018年5月15日のスルガ銀行危機管理委員会の調査報告により、スルガ銀行およびスマートデイズの関連する不動産会社は次のような仕組みで投資家に融資を行っていたことが明らかになりました。

かぼちゃの馬車の融資獲得の仕組み

  • 投資家の通帳の偽造と改ざん
  • 二重契約(かきあげ)

スルガ銀行には「自己資金が1割」という融資条件があります。しかし、かぼちゃの馬車の強みは「頭金なしの自己資金ゼロ」です。
そこで、スマートデイズ関連の販売会社は顧客(投資家)の自己資金の残高を証明する通帳や書類の偽造を行っており、スルガ銀行もそれを黙認していた疑いがあります。

また、二重契約というのは、実際の売買契約書とは別に融資用に改ざんした売買契約書が用意され、それをもとに融資審査が行われていました。

かぼちゃの馬車二重契約の例
実際の契約 融資用の契約(見せ金)
売買価格 8500万円 1億円
土地分 5000万円 6500万円
建物分 3500万円 3500万円
(自己資金) ゼロ 1500万円

不動産取引における「かきあげ」とは?

今回のかぼちゃの馬車のように、不動産の買い手が「安定した年収はあるが自己資金がない」という場合でもローンを組めるように不動産の売り手と買い手が共謀して2種類の売買契約書を作ることをかきあげと言います。融資を受ける際の条件が「融資額は販売価格の9割まで」であれば、販売価格を水増しして融資申請することで販売価格の全額を融資してもらうことが可能になる、という手口です。

かぼちゃの馬車の場合はこの通帳の偽造と二重契約をスルガ銀行が黙認し、過剰な融資を続けたため被害者が700人を超す事態となりました。(黙認したと疑われている理由は、かぼちゃの馬車が自己資金ゼロを大々的に謳っているのに、融資申請した投資家がみんな書類上は十分な自己資金を用意していたため)

現在、被害者の会はスマートデイズを詐欺罪で提訴するとともに、スルガ銀行に対しても「スマートデイズによる書類改ざんを黙認した」として責任を追及しています。

スマートデイズにしてみれば、スルガ銀行が投資家に融資してくれればシェアハウス販売とサブリースのスキームが実現できる、スルガ銀行にしてみれば、融資をしてローンを組んでもらえれば長期的に高い利息(4%)の収入が得られる、という関係が成り立ちます。

このような仕組みで、スマートデイズとスルガ銀行はそれぞれの利益のために、本来ならかぼちゃの馬車被害者が投資できない高リスク商品に投資させたのです。

なぜこうなった?かぼちゃの馬車の失敗の【原因】

このように、スマートデイズによる融資申請書類の改ざん、スルガ銀行による過剰な融資があっても、かぼちゃの馬車の運営がうまくいっていればこれほど大きな問題にはなりませんでした。かぼちゃの馬車のオーナーは約束通り30年間家賃収入を得るか途中で売却し、スルガ銀行にローンを返済し、トータルのキャッシュフローをプラスにして不動産投資を成功させていたはずです。

しかし、かぼちゃの馬車には部屋が入居者で埋まらないいくつもの理由があったのです。

かぼちゃの馬車の問題点

  • シェアハウスの魅力となりうる共用のリビングがない
  • 駅からは近いが賃貸物件の激戦区
  • オーナーに保証した利回り8%を維持するために、物件の価値に対して家賃が高い
  • 部屋が狭い(4畳)
  • 目標は「入居者の回転率高く」→しかし、入居率は40%以下に

また、かぼちゃの馬車のコンセプトは、地方から首都圏に来たばかりの女性に部屋を貸し、仕事をあっせんすることで紹介料を得、家賃収入以外にも収益源があるというものでした。

しかし実際には入居率は40%以下となり、入居者が少ないので仕事のあっせんのほうも収益が得られず、経営が立ち行かなくなってしまいました。そこでスマートデイズは既存のかぼちゃの馬車の損失を新規のかぼちゃの馬車建設で補てんするという自転車操業に陥ったのです。

不動産投資が成功するかは、物件の価値を見定める調査にかかっています。女性向けシェアハウスの市場はどうなのか、利回り8%は妥当なのか、かぼちゃの馬車の建物は女性のニーズに合っているのか、既に運営しているかぼちゃの馬車の実際の入居率はどうなのか、入居者で活気がある状態なのか、営業の人間の説明だけでなく現地に赴いての調査が最も有効です。
自分だったら入居したくなるような物件か、必ず調べてから投資をすることでリスクを下げることが可能です。

なぜスルガ銀行はお金を貸した?

最新のスルガ銀行危機管理委員会の報告では過剰融資の原因を次のように分析しています。

スルガ銀行が過剰融資をした理由

  • チャネル営業といって、スマートデイズとその関連会社(チャネルという)に個人投資家を紹介してもらうという仕組みに依存しすぎて、本当は回収リスクの高い融資を続けてしまった。
  • スルガ銀行は全社的に前年比増収増益を掲げており、そのプレッシャーにより営業部門のかぼちゃの馬車推進に対する審査部門の牽制機能が十分に機能していなかった。
  • スルガ銀行は「新築シェアハウス投資に対する融資」をアパートローンの延長としかとらえておらず、融資前のリスク評価、融資後の継続的な状況調査が不十分であった。

そして最後に「顧客本位の業務運営に対する意識の欠如」を挙げています。

スマートデイズのシェアハウス案件において、スルガ銀行は不良チャネルに欺かれて不良債権を掴まされた被害者という側面も有している。
しかし、本件を銀行の社会的責任の観点からマクロ的に見ると、スルガ銀行側にも大きな問題があった。スルガ銀行が、「高度の専門性と職業倫理を保持し、顧客に対して誠実・公正に業務を行い、顧客の最善の利益を図る」(「顧客本位の業務運営に関する原則」の【原則 2.】)という姿勢で臨んでいれば、スマートデイズのシェアハウスビジネスの問題性を早期に把握できたはずであり、このビジネスから早々に手を引き、多くの顧客を巻き込み、自らも痛手を被るという事態に陥らずに済む可能性もあったと思われる。

出典:スルガ銀行危機管理委員会の報告

かぼちゃの馬車は今後どうなる?

今後の被害者の救済ですが、かぼちゃの馬車のオーナーは騙されて物件を購入した一般消費者ではなく、かぼちゃの馬車の事業者の立場になります。この場合お金を出資して終わりでなく、かぼちゃの馬車を成功に導く経営者でなければならないため、どこまで救済されるかはわかりません。サブリースの管理会社を変えるにも引き受けてくれる管理会社を見つけることは難しく、シェアハウスでの運営をあきらめてアパートや賃貸物件に転換するにしても追加の自己資金が必要であり、利回りも下げざるを得ません。

そして、不動産評価額より販売価格が著しく高い(例.土地と建物でそもそも7000万円のものを1億円で売る)というスマートデイズの手口によって、かぼちゃの馬車オーナーは物件を売却して借金を返済することが難しくなってしまいました。そもそもの価格で物件を売却すると購入価格を大きく下回るからです。つまり、フルローンで組んでいたはずのローンがオーバーローンというさらにリスクの高い状態で融資を受けてしまっていたのです。銀行の融資では物件自体を担保としているので、物件を売却してもローンが残る場合は、売却ができないというルールがあります。

かぼちゃの馬車の被害者に対して自業自得と切り捨てる声も多いですが、先の見えない将来に備えて投資を行うことは今の日本では特別なことではありません。現時点で安定した収入があっても20年、30年先はわかりません。老後のことや家族のことを考え、保険のつもりでかぼちゃの馬車に投資してしまったオーナーは多いようです。

かぼちゃの馬車事件から学ぶこと

  • 新興会社の30年保証は当てにならない
  • 今後日本の人口はますます減少していくので、安易に不動産投資のもうけ話に乗らない
  • 不動産業者のデータだけで判断せず、ありとあらゆる方法で現状を調査し、分析する
  • 不動産投資の成功話だけでなく、失敗談をたくさん学ぶ

不動産投資の失敗談については、不動産投資の失敗談8選!不動産って儲かる?儲からない?がおすすめです。

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